徒然

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すいません・・・
JUGEMテーマ:趣味

Crazy Beat HOLIDAY5のリンクがきれてました。すいません。
教えていただきありがとうございます。
HPのデータが入ったパソが今使えないので、緊急避難として、この下に突っ込んどきます。
きちんとリンク切れ直しますので、それまでこちらをご利用ください。

では。
5



 イオリア・シュヘンベルグの考察



 刹那という風変わりな名前を持つ子供を引き取ることになったのは、ほんの偶然、というより大人の都合で振り回されている彼に対する同情のため、といった方が正しいかもしれない。
 病院の個室で自分を出迎えた彼は、子供らしさなどかけらもなく、言われるままに動く人形のように見えた。ずっと病院暮らしで、看護師や付添のいいなりにするよう習慣づけられてしまっているのだろう。病室のしつらえは豪華だったが、そこに子供の個性も、誰かの愛情の欠片も見当たらなかった。
 「イオリア・シュヘンベルグだ。今日から君の保護者を務めることになった」
 疑問も反論もなく、刹那は頷いた。
 「私は東京に住んでいる。だから君も、そちらへ移ってもらうよ」
 「ここから、出る・・・・・?」
 初めて聞いた子供の声は、若干かすれていた。話すことに慣れていないように思えた。
 「気をつければ普通に生活しても問題ないそうだ。カルテももらってあるから、近所の病院で診てもらえる」
 おいで、という代わりに手を差し出すと、恐る恐る自分も手を伸ばしてくる。怖がらせないよう、そっと握った。冷たかった。
 とある国の由緒ある家系の次代の主として望まれて生まれてきたのに、軽い障害を持っていたため――自然に治ってしまう可能性があり、そうでなくても手術で治せる程度――、父の母、つまり刹那の祖母と母との間に以前からあった確執は、さらに悪化した。さらに子供が生後数カ月で発症した喘息をきっかけに両親の仲も悪くなった。もともと家格が釣り合うというだけで結婚したふたりだ。子供の健康についての責任をお互いになすりつけ合い、原因となった刹那を無視した。一種のネグレクトだ。
 もっともひどいと感じたのは、一連の言い争いを誰の前でも――勿論刹那の前でも――繰り広げたことだ。物心ついたころからそれを見聞きさせられていた子供は、自分が悪いのだと思い込み、ひとり入院させられても、何も反抗しなくなってしまった。
 そうして遂に両親が離婚し、ふたりとも、そして双方の親族の誰もが彼を引き取ろうとせず、困った病院側が連絡をつけたのがイオリアだったというわけだ。
 独身を貫いてきた彼にとって病院の申し入れは迷惑でしかなかった。だが事情を聞かされれば、義侠心がうずく。
 子供に会うまでに彼の保護者になることを決めていた。



 刹那は大人しく手のかからない子供だった。かからなすぎた。イオリアの乏しい経験でもそれがおかしいことはわかる。東京に移り、部屋を宛がわれ、足りないものはないかと問うても『何も』としか答えない。
そんな彼が唯一興味を示したのがイオリアの書斎だった。天井までぎっしり詰まった本に空ろな目が初めて輝きを見せたのだ。好きに読んでよいというと、一日中こもっているようになった。初めは安心していたのだが、元教師の常連客から、それではまずいという指摘を受け、日に数時間、店の手伝いをさせるようにした。
今まで他人との付き合いに受動的だった刹那は戸惑い、ミスも連発した。
『彼』が店に飛び込んできたのは、ようやく子供が慣れ始めたころのことだ。入ったはいいが、ここがどういう店か敏感に感じ取り、それでも土砂降りの雨に躊躇しているさまが手に取るようにわかる。何も心配はいらないのに、と刹那にタオルを持っていかせた。   
そのあとのふたりのやり取りには少々驚かされた。
男は戸惑っていた。まさか遠い異国で自分を知っているものがいるとは思わなかったらしい。
――どうやら、後ろ暗いところがあるようだ。
刹那は純粋に彼との再会を喜んでいたが。
傘を借りて帰っていく男を見送った後、子供は珍しく自分から『彼』――ニール・ディランディとの出会いを話してくれた。
その頃よく見かけるようになった彼に、突然『本が好きなのか?』と声をかけられたこと。頷いた自分に、読んでいた本を指さされ、それ、面白いかと問われ、面白いけれど半分くらい読めない言葉があると答えると、じゃあ、俺が読んでやるよといわれ・・・・・。
その本が終わる前に彼がここに来る必要がなくなったけれど、約束だからと最後まで読んでくれたこと。あいまにしたいろいろな話。
突然来なくなってしまい、どうしたのか心配したが、探すすべを持たなかったこと。
――そうか。
刹那は彼によって初めて何も見返りを求めない『善意』を知ったのだ。相手にとっては取るに足らない行為だったかもしれないが、子供には忘れられないほどの充足感だったにちがいない。
だが『彼』は二度と来ないだろうと思っていた。


その思いは良い方向に裏切られた。


日に一度は顔を出すニールを見て本人も気付いているのがわかる、刹那に向けている視線に、同情や憐憫以外のものが混じっていることを。子供が彼との思い出を支えにしていたように、彼も『今刹那がここにいる』事実を大切に思っている。どんな形ででも二度と失いたくない、それにはどうしたらいいのか考えているようだ。
――ゆっくりやるといい。
一方は手をこまねき、一方は自分の気持ちに気がついていない。じれったいが面白いじゃないか。
イオリアは刹那がいれた紅茶を飲んだ。こちらはずいぶん進歩したなと思いながら。
| Key | GANDAM 00 | 14:59 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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